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もくじ
『クラッシュ 』プチ情報
カルト的人気が高いデヴィッド・クローネンバーグの作品です。「自動車事故に性的興奮を覚える」という非常に独特な世界観を描いてます。この作品を完全に理解できる人はそう多くはないでしょう。性的描写が多い作品なので嫌悪する人も多いと思いますが、不思議な世界を覗いてみましょう☆彡
『クラッシュ 』のあらすじ
TVプロデューサーのジェームズキャサリンのカップルは、お互い不倫を公認する仲。二人とも、色々な相手と性行為をし、常にエクスタシーを求めている。ある日、ジェームズは他の自動車と正面衝突っする事故に遭う。ジェームズは負傷で済んだが、相手方の自動車の運転手が飛び出し、自分の車の助手席に突っ込み死亡した。その光景をまじまじと眺め、不思議な感覚に襲われる。その後、入院し治療を受けていると、死亡した運転手の妻と病院内で顔を合わせた。そこは、ジェームズの傷を丹念に見る風変りな男も一緒だった。
『クラッシュ』の作品情報/キャスト
原題 | Crash |
公開 | 1996 |
ジャンル | ドラマ |
監督 | デヴィッド・クローネンバーグ |
出演 | ジェームズ・スぺイダー、デボラ・カー・アンガー、 ホリー・ハンター、ロザンナ・アークエット |
受賞 | 1996年カンヌ映画祭審査員特別賞 |
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『クラッシュ』のレビュー・感想・考察(ネタバレ注意)
以下は本作に対するmmの感想と考察です、ネタバレが含まれますのでご注意ください
変態映画
大槻ケンヂ風に言うと、「文学な人(この世の価値観から超越した人)」の映画であろう(「オーケンののほほん日記」参照)。平たく言うと、変態エロドラマ。
しかし、一方で、そう簡単に片づけてしまっていいのか?と思ってしまうが・・・。
公開当時からこの作品の存在は知っていた。けれども、観る気がしなかった。チラシから、きっとセックス依存症の人たちのエロティックムービーなんでしょうと。処理能力を超えている感じが当時からしていて、敬遠していた。
90年代半ば、ジェームズ・スぺイダー中期の作品は変態系が多い。彼のことは憎からず想っていたのに。時間を割いてわざわざ観る気が起こらなかったのは、この類のたっぷり官能系には、あっと驚くような内容とか、観ていてハッピーとか、単純に興味をそそるとか、そういう感情とは無縁のように感じていたから。
それでも、縁がある作品は何もせずとも観る機会はやってくる。機会が巡って来たので観たところ、やはり、「ううーん・・・」。観る前と観た直後の感想はほぼ同じで、やはり自分の処理能力を超えた感覚があった。
快感をとことん追い求めたいという欲望や世界観は解らなくもない。しかし、テーマの「自動車事故に性的興奮を覚える」という世界観を理解できそうもないし、想像することも難しい。
そういう変わった趣味の人もいるかもねという感じで、多くの観客がかなりの距離を置いてこの映画を観る羽目になるだろう。
描写の半分以上がセックスシーンなので、誰かと一緒に観るには耐えられない作品かも。主人公カップルは、所かまわず、相手も構わず、エクスタシーを求めて止まない。と言っても、一応ポルノ映画ではない。
公開当時、この作品は大いに物議を醸した。自動車事故を誘発するいわゆる「あおり運転」のシーンが多く、かつ、事故で障害を負ったキャラクター(ロザンナ・アークエット)の描写の仕方が障害のある方にも失礼ではないかと映画業界内で批判が殺到した。しかし、一定の支持者もいて、カンヌ映画祭審査員特別賞を受賞。
エクスタシーの追及
物語全体を通して、「自動車事故に性的興奮を掻き立てられる人たち」というテーマを一貫して描いていることには関心した。よくもまぁ、こんな抽象的なテーマで最後までブレずに貫いたこと。しかも、映像もある程度美しく、芸術的であるところがポルノと一線を画す重要な点だ。
俳優さんたちも、演じている最中の心中はどうなのか計り知れないが、きちんと作品となっているのだから、自分たちの役を演じ切っていることにも関心する。
主人公カップルの一人を演じるデボラ・カーラ・アンガーは大学で哲学を専攻していたそう。ジェームズ・スぺイダーも、若い頃、お湯の入っていない浴槽に服のままで読書にふける白黒写真があった(何の写真だろう?)。演者の人たちもそれなりに文学・芸術思考レベルが高いようだ。アート系の思考の人はこういう抽象的なテーマにも耐え得る思考回路を備えているのだろう。
性欲が極端に過剰な人の間では、セックスは愛情表現ではない。性別を超えて、男同士、女同士ともセックスをしてエクスタシーを求める。性欲が過剰になると性別なんてどうでもよいのだろう。ただ単に、快感を与えてくれるものなら何でも。
それにしても、主人公が自動車事故オタクのヴォーン(男)とまでカーセックスするところは気持ち悪い。エクスタシーさえ得られれば、本当に誰でもいいという完全に頭の狂った人たちの徹底ぶりを描いているのは、寧ろ忠実なことかもしれない。相手が生理的に気持ち悪いかどうかももはやどうでもいいとは、懐が深いと言えよう。流石に獣姦までは描いていないので、そこはホッっとする。
変態とノーマルを行き来するジェームズ・スぺイダー
ジェームズ・スぺイダーと言えば、登場人物のほぼ全ての人がおかしな人だった大ヒット恋愛映画『エンドレス・ラブ』で、唯一まともな役を演じていたのが最初の記憶。なのに、80年代の彼は、『プリティ・イン・ピンク 恋人たちの街角』や『レス・ザン・ゼロ』等、青春映画ではいじめっ子や悪役を演じることが多かった。彼の悪役の表情にややサディスティックな一面が一瞬見て取れた。
その後、彼は変態路線も巧みにカバーできる役者へ成長。何といっても主演作『セックスと嘘とビデオテープ』(1989)がカンヌ映画祭パルムドールを受賞し、ジェームズ・スぺイダー自身もカンヌ映画祭男優賞を受賞。『セックスと嘘とビデオテープ』も本作同様に官能系の作品ではあるものの、ナイーブで繊細な常識ある変態青年役。色気と知性を存分に発揮し、飛躍の作品となった。
その直後の『ぼくの美しい人だから|White Palace』(1990)は、あまり知られていないがとても良い作品。年上のウェイトレス、スーザン・サランドンから押しに押されて恋に落ちるノーマルで内気なお金持ちの青年の役柄。終始受け身な姿勢の中にも、チラチラ変態的な片鱗が見え隠れした。
大作『スターゲイト』(1994)ではエジプト考古学者を演じているが、これは彼のキャリアの中でも異色中の異色。空軍大佐役のカート・ラッセルとは対照的な、繊細で地味な博士の役。しかし、キャラクター的には『セックスと嘘とビデオテープ』の文学青年の延長線上の役柄で、アブノーマルをそぎ落としてノーマルにしたもの。大作&子供向けということもあり、変態性は封印。
そして、96年にこの『クラッシュ』。『セクレタリー』(2002)では、変態弁護士の役柄。変態プレイの中でも放置プレイを織り交ぜた異色の恋愛映画。
2000年代には、TVでも活躍。大人気弁護士ドラマ『ザ・プラクティス』のスピンオフ『ボストン・リーガル』ではエミー賞最優秀主演男優賞も受賞。ここでも変態性は封印。最近は『ブラックリスト』でも活躍。すっかり髪の毛が薄くなって、アクが抜けた感じ。
こう見てくと、ジェームズ・スぺイダーは何とも器用な役者だ。ノーマルな役と変態の役を行き来することができる稀有な俳優。ハンサムなルックスに加えて、彼の瞳の奥にある「ナイーブで繊細な色気」に魅力を感じた監督が多かったということだろう。そして、彼自身も、監督が描きたい「文学している人」を拒絶せずに演じ切る懐の深さと才能があった。
この作品を十分理解することはできないけれども、変態を演じ切ったジェームズ・スぺイダーの力量には感服する。
ホリー・ハンターとロザンナ・アークエットの無駄遣い
ホリー・ハンターとロザンナ・アークエットも出演しているが、何れも必要な役柄だったのかが不明な役回り。彼女たちも変態グループの一員で、主人公とカーセックスを楽しみ、自動車事故に性的興奮を加速させる。
ホリー・ハンターは、最初の方は謎めいた女で登場し主人公を惹き付けていたけど、中盤以降、その意味も薄れていき、かつ、医者という設定も何の伏線にもなっていない。しかも、彼女は小柄なため、謎めいた女というより、おかっぱ頭の小学生の女の子にしか見えなかった。衣装のロングコートも長すぎて引きずる感じさえした。
ロザンナ・アークエットも単なる変態グループの賑やかしで、主人公との絡みも1回だけ。彼女にボンテ―ジファッションみたいな衣装を着用させて登場させるのが目的で、それを絵として差し込んでおくことで、グループの変態性を増幅させる役割だったのかもしれない。
やっぱり、この二人って必要だったのかな、と思えてならない。
『クラッシュ 』のまとめ
- 特殊過ぎる世界観のため、ついて行ける人は多くない作品
- ポルノ映画としてではなく、エクスタシーをとことん追求する人を描く事を貫いたという点では関心する
- 『セックスと嘘とビデオテープ』で飛躍したジェームズ・スぺイダーが、変態キャラクターをより先に進めた