猫が行方不明(1996)/Chacun cherche son chat☆みんな猫を探しています

ドラマ

メイクアップアーティストとしてファッション業界で働くクロエ。パリでゲイのルームメイトと住む若い女性だ。休暇に行くため、愛猫グリグリを預けなければならなくなり、ようやく見つけた猫好きのお婆さんに愛猫を預かってもらう。ところがグリグリがはお婆さんの家から出ていってしまう。お婆さんから一報を受けたクロエは、パリの下町を近所の人々に助けられながら必死に探すことになる。

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90年代を代表する可愛くてキッチュなフランス映画です。女の子がパリの下町をウロウロしている光景は『アメリ/Le Fabuleux Destin d’Amélie Poulain』(2001)にも通ずるものがありますが、毒気はそれ程ありません。観光では見えないパリの人々の暮らしぶりも垣間見える作品です☆

原題Chacun cherche son chat
公開1996
ジャンルコメディ
監督セドリック・クラピッシュ
きゃすとギャランス・クラヴェル、ロマン・デュリス 
受賞歴1996年ベルリン国際映画祭映画批評家協会賞
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以下は本作に対するmmの感想と考察です

私は猫派である。猫があちこちに登場する「岩合光昭の世界ネコ歩き」的猫映画だと勘違いしたものの、残念ながら猫をじっくり追っかけるという映画ではない。

長田弘の本に『猫に未来はない』という小説がある。猫好きにとっては絶望的で残酷なタイトルであるが、中身はいろいろな猫が登場し、若い夫婦が注ぐ猫愛にあふれた可愛らしい内容だったことを思い出す。  

しかし、クロエはいなくなった猫を必死に探す。猫を探す映画であることは間違いない。猫を探している人々に大きくフォーカスされている。

同居人には恋人がいて、自分にはいない。主人公にはメイクアップアーティストという仕事があり、決して目下人生に悩み中というわけではないが、どこかしら空虚だ。 この空しい心はどこからくるだろうか、クロエも気づいていない。猫がいなくなったことで自分にも何か欠けているものがあるという気持ちにも少しずつ気づき始める。

クロエが愛猫を探してパリの下町をウロウロする。その光景は、さながら人生の方向性を失った人が迷路で右往左往している様を表現しているよう。

主人公が困った顔で必死になっている中で、色々な人に出会う。猫を探している様は、空虚な自分を満たす何かを探しているという感じがする。

猫を探して街をウロウロしていると出くわす男がいる。ロマン・デュリスである。夏なのに半袖に毛糸の帽子をかぶる等、見るからに自由人のようなレゲエ風の男。ちょっとやんちゃなイケメンの彼が、クロエも気になる。

人間は動物であるから言葉を交わさずとも、好意を持っている・好意を持たれていることを瞬時に発信し合う。まさに目と目が合ったらミラクル。好きだとか愛しているとか、言葉でいちいち表現しなくとも伝わってしまう。

そして、縁があれば、約束しなくても自然と出会う。どれだけ邪魔が入ったとしても、不思議なことに。

通りで何度かすれ違い、お互いを認知した。その後バーで出会い、言葉を交わす寸前まで行った。そしてお互いの心に残り、心のどこかでまた会いたいと脳に刻まれた。

そうすると、近いうちにいつかどこがで二人は出合う。なぜなら、お互いの脳に相手の情報が刻まれたから。

一度脳に情報が深く刻まれると、無意識レベルで行動に影響するのだろう。脳は本当に頭がいい、情報をよく覚えている。脳の指令によって、その後の行動が相手に出合う方向へと働く。相手の行きそうな場所に出没したり、再度バーに行ったり。

縁というのは一見何もしない偶然のような代物のように思えるが、実は自らが引き寄せた結果ではなかろうか、と感じる。

だから、本当に縁があるかどうかは、ただ待っていればいい。

クロエは謎の男とめでたく出会えた。然し、距離を縮めてみると、男とは精神構造が異なるようだ。やはり見た目に現れていたとおり、自由人だった。クロエのことを深く考えてくれるタイプではない。

惹かれて、成就したものの一時の関係で終了。愛猫には再会できたが、やはり人生のパートナーとは未だ出会えていない空虚さが再びやってくる。

縁の中にも長続きする縁と、短期間だけの縁がある。本作は、その辺りもサラリときちんと踏まえて描いているところが人間観察が長けていると思う。

本作は、ある人が心許せる運命の人に出会うまでの過程を描いた作品と言えのではなかろうか。

子供時代が終わって、漸く社会との接点をつかんで本当の意味で自分の人生を踏み出した大人時代の開幕期。人生どう生きたらいいかわからないという迷いに直面する不安で頭がいっぱいの時期である。

一人前の大人にはなったけれども、どこかしら不完全な気持ちがしてならない。

そういう自分を向き合ってくれ共に時間を過ごして豊かな人生を送ることができる相手に巡り合えたらどんなに幸せだろう。

行方不明になったのは猫ではなく、自分の心と言いたいのではなかろうか。軽薄な感じがしてあんまり「自分探し」という言葉は使いたくないが、いわゆる「自分探し」なのかな。

監督はセドリック・クラピッシュ。本作の他に『百貨店大百科/Riens du tout』(1992年)、『家族の気分/Un air de famille』(1996年)、『スパニッシュ・アパートメント/L’Auberge espagnole』(2002年)を撮っている。『汚れた血/Mauvais sang』(1986年)にも照明担当として参加。本作はフランス国内でも大ヒットし、ベルリン映画祭国際批評家連盟賞を受賞。

私は2000年に大阪の天六ホクテンザで本作を鑑賞したので、日本でも本国公開後数年して公開されている。『アメリ/Le Fabuleux Destin d’Amélie Poulain』(2001年)の世界観が好きな人は、本作も好きになるのではなかろうか。然し、本作には毒らしい毒は加味されていない。『アメリ/Le Fabuleux Destin d’Amélie Poulain』の毒入りユーモアセンスとは程遠く、非常に平和的な仕上がりとなっているので、『アメリ/Le Fabuleux Destin d’Amélie Poulain』にドハマりした人には物足りなさを感じざるを得ないであろう。それはシンプルに監督の違いであると言えば元も子もないけれども。思想的な点で、セドリック・クラピッシュは常識人であって、『アメリ/Le Fabuleux Destin d’Amélie Poulain』の監督ジャン=ピエール・ジュネは頭一つ出て変人の域に達しているという大きな違いがあろう。当然映画は監督のもので、監督の人間性は作品に出る。

主人公クロエが恋人と同棲している部屋の壁にかかっている鏡やベッドの布団の柄。キッチンに飾ってあるピーマンの絵。クロエの服装も何気なく特段洗練されているわけではないが、赤や青等のカラフルな色使いが見ていて楽しい。猫を預けることになるおばあさんの家の階段にある植物。ある婦人の部屋は植物柄の壁紙にさらに数々の絵画を飾って、かなりごちゃごちゃしている。無印良品とは対極にあるインテリアセンス。ごちゃごちゃした感じもおしゃれに映るところがフランスマジックである。

仏英日でタイトルを並べると以下の通り。ニュアンスが各国で微妙に異なるのが分かって面白い。

原題Chacun cherche son chat/みんな猫を探しています
英題When the Cat’s Away/猫がいないとき
邦題猫が行方不明

邦題は、原題『Chacun cherche son chat』の「みんな猫を探しています」をギュッとコンパクトにしたもので、原題と意味は遠くないものの、「猫」という言葉と「行方不明」という言葉が合わさることで日本語の語感的にコミカルな印象を受ける。一方、英語の『When the Cat’s Away』は「猫がいないとき」という意味で、猫の不在に注目した孤独感のニュアンスが強い少し寂しい印象を受ける(ネイティブの人の語感は不明だが)。

比べてみるとわかるが、他の言語はどうしても説明的でややもすると詩的な言い回しになっているものの、日本語は体言止めでバシッとまとめてくる語調である。これは日本語というか漢字が持つ「言葉の凝縮力」が遺憾なく発揮されている。行方不明という四文字熟語がある日本語は便利な言語だなと改めて感じる。

  • 90年代を代表するフランス映画
  • 『アメリ』ほど毒気はない
  • 行方不明になったのは猫ではなく自分自身
  • 運命の人は後から登場する

パリ11区(バスチーユ地区)。 Le Pause Caféは、休暇から戻ったクロエが友人とくつろぐカフェ。そこへ猫を預けているお婆さんが通りかかる。

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