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もくじ
『鑑定士と顔のない依頼人|The Best Offer』のあらすじ
鑑定士ヴァージル・オールドマンは、大成功した競売人でもある。自分の名前のオークション会場を経営し、今や多くの富を得て、ホテルのように美しい家に住み、食事は高級レストラン、一流品で身をまとっている初老の男だ。ある日、クレアという女性から、亡くなった両親の遺品である家具や調度品を査定して欲しいという電話が入る。彼女と会って詳細を聞こうと試みるも、彼女が事故に遭遇するなど、中々彼女と会うことができない。彼女のすむヴィラに
『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督による大人の上質ミステリーです。何回か観ないと仕込みが理解できないかもしれませんが、主人公と同じ目線で謎に引き込まれること間違いなしです☆彡
出典元:Transmission Films|Official Trailer
『鑑定士と顔のない依頼人|The Best Offer』の作品情報/キャスト
原題 | The Best Offer |
公開 | 2013 |
ジャンル | ミステリー |
監督 | ジュゼッペ・トルナトーレ |
出演 | ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、 ドナルド・サザーランド、シルヴィア・フークス |
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『鑑定士と顔のない依頼人|The Best Offer』のレビュー・感想
以下は本作に対するmmの感想と考察です、ミステリーですがかなりネタバレが含まれます。閲覧にはご注意ください。
美人画に囲まれた孤独な男
復讐劇というジャンルに一ひねり加えたミステリー作品。初老の男の「初恋」という状況を巧妙に絡めることで、観客は何とも言えない後味の悪い感覚を味わうことは間違いない。
ジェフリー・ラッシュが演じる孤独な鑑定士ヴァージル・オールドマンは、大成功した競売人。自分のオークション会場を経営し、今や多くの富を得て、ホテルのように美しい家に住み、一流品で身をまとっている。
しかし、彼は人生で一度も女性と交流を持ったことがない。孤児院で育ったから母の愛情も未経験だ。
彼の孤独な人生を象徴するかのように、彼の秘密の部屋にはこれまでオークションで収集した膨大な美人画が飾られている。
これらの絵画は、彼が自分の中に抱える感情を外界に表現する手段であり、また彼の人生に欠けている「人間的なつながり」を象徴している。
巧妙なロマンス詐欺
孤独な人生を送って来たヴァージルは、突如クレアというと出会う。クレアとの出会い方は相当込み入ったものだった。
クレアはヴァージルに何度も電話をかけ、初対面までに、これでもかというくらい時間をかける。漸く会えそうになっても、広場恐怖症・対人恐怖症という理由で壁越しに話をし、中々対面できない。
電話で頻繁に会話し、心理的な距離を相当詰めたあと、漸く二人は出会う。
ここまで二人の出会いをじらすのは、インテリなヴァージルを夢中にさせる必要があったからだ。あの手この手で興味を継続させて、二人の出会いを運命の出会いまでに貴重なものとして昇華させる必要があった。
クレアとの出会いは、ヴァージルが初めて経験する「真実の愛」への渇望と結びつき、彼の感情的な脆弱さを巧みに突いていく。
ヴァージルの孤独感と未経験の恋愛感情を利用して、彼の貴重な美人画コレクションを全て横取りされる結果と繋がる。
良く出来た謎解き
『鑑定士と顔のない依頼人』は、その複雑なプロットと多層的な伏線が特徴。物語の展開には数多くの伏線が張り巡らされており、それらが徐々に解き明かされていく過程が観客を惹きつける。
ヴァージルはある人物から恨みを買っている。その人物は彼の美人画コレクションをゴッソリ横取りする。物語の大半がヴァージルを陥れる為の巧妙な仕組みだったということである。けれども、少なくとも2回は観て答え合わせをしないと、どこの伏線が最後にどうなったかが理解できないだろう。最後まで観終わっても、首謀者は恐らく・・・だろうという曖昧な推測で終わる位、あまり細部も明らかにしていない。
その理由の一つに、詐欺師が詐欺師の顔をしていないからである。観客もどの人物が詐欺師だったは最後まで観ないと解らない構造になっている。
監督は、観客も主人公と同じ目線で物語の謎を体感できるような作りにしている。ヴァージルの行動や彼の周囲の人物たちがどのように絡み合い、最終的にどのような結末を迎えるのかが、ミステリーとしての緊張感を高めている。
復讐する理由
首謀者というのはビリー(ドナルド・サザーランド)だろう。長年の友人であり、共にオークション会場で美人画を手に入れる為に共謀していた仲である。
その彼がヴァージルに復讐する理由とは何なのか。1回観ていてもイマイチ明確に解らないかもしれない。
これはビリーのセリフの中にある。それは、ヴァージルが、かつて画家だったビリーに画家としての素質を一つも評価しなかったこと。
「君が信じてくれたなら 俺も偉大な画家になれた」
このセリフはこの映画のテーマに繋がる重要なセリフだろう。つまり、この映画は自分が魂を込めて作ったものを酷評された人間による復讐がテーマと言えるのではないか。
ヴァージルは鑑定士であるので、批評家である。その高名な批評家に評価されることのなかった無名の画家の長年の恨みが、ヴァージルに初めての恋愛をさせて奈落の底へ突き落すことだった。
狙い通りの後味悪さ
ヴァージルはラストで全て詐欺だったにことを知る。そこからのヴァージルの転落は悲惨としか言いようがない。
老人施設に入所し、かつての部下が訪問するが、彼の言っている事など上の空だ。
膨大な美人画がクレアと共に無くなったことはあまりにショッキングだったが、一番の出来事はクレアがいなくなったことだ。
クレアとベッドを共にしたこと、それまでもが詐欺だったのか。その1点がどうしても受け入れられない。
かつてクレアが話していたプラハに行き、彼女の足跡をたどる。そして、レストランで絶対に来ることのないクレアを、大勢の客が歓談する中、ひとりぽつんと待ち続ける。
彼女は本当に自分を愛していなかったのか。
最後は愛の話になっている。再び孤独となったヴァージルに、彼を慰める美人画たちもいない。
もしかして、ビリーの計画はビリーも予想外の効果を発揮し、ヴァージルに現実と虚構の区別ができなくなるほど残酷な結末をもたらしたということなのだろうか。
最高に後味の悪い物語である。だからと言って成功していないわけではなく、監督の意図どおり、後味が悪い印象を与えることができたら、この作品は成功である。
格調高い雰囲気や、奈落の底に堕ちた男の悲哀がひしひしと伝わり、芸術作品として優れている。
脇役のジム・スタージェスが新鮮で良い。
『鑑定士と顔のない依頼人|The Best Offer』のまとめ
- 復讐劇というジャンルに一ひねり加えたミステリー作品
- 良く出来た謎解きで、仕組まれた伏線は少なくとも2回観ないと全貌がわからない
- ラストは痛ましく、最高に後味の悪い(しかし、それは監督の狙い通りである)
- 格調高い雰囲気で芸術作品として優れている