運命じゃない人(2004)☆凄く地味なのに凄く面白い。仕込み抜群!複雑に入り組んだ男女5人の多重構造な夜。

コメディ

出典元:ぴあフィルムフェスティバル/Official Trailer

恋人あゆみに突如フラれた冴えないサラリーマンの宮田。あゆみとの結婚の為にマンションも購入した矢先だった。宮田を励ますため、探偵で友人の神田はレストランで近くの席にいた真紀をナンパ。真紀もちょうど婚約破棄をされたばかりで落ち込んでおり、ナンパを快く受けるのだった。そうして出会ったばかりの宮田と真紀。程なく神田は二人を残してトイレに行きそのまま消えてしまう。宮田は初対面の真紀が落ち込んでいるのを気遣い、泊まるところが無いと言うので流れで一晩家に泊めることに。一方、その数日前、あゆみは神田をの事務所を訪れていた・・・。

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複雑に入り組む男女5人の物語をひと晩に凝縮。物語を3つのパートに分け、夫々のキャラクターの視点から同じ場面を時間を行ったり来たり。観客は、一夜の物語が段々と多重構造になっている構成に気付かされていく巧妙な構成に完敗するでしょう。多数の受賞歴を持つ必見の作品です☆彡

公開2004
ジャンルドラマ
監督内田けんじ
キャスト中村靖日、霧島れいか、山中聡、板谷由夏、山下規介
受賞PFFアワード2002:企画賞(TBS)、ブリリアント賞(日活)
2005年カンヌ映画祭:フランス作家協会賞(脚本賞)、最優秀ヤング批評家賞、最優秀ドイツ批評家賞、鉄道員賞(金のレール賞)
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以下は本作に対するmmの感想と考察です

この作品は何が凄いって、脚本がとても上手。仕込みに仕込んでおいて、最後にきちんとつじつまが合うように構成されており、その技が天才的。

更に、主人公宮田が見ている世界と観客が見ている世界が全然違っていて、夫々がパラレルになっている。

1.宮田が見ている世界。恋人にフラれたばかりの冴えないサラリーマンが、レストランで偶然婚約破棄で落ち込んでいる真紀と出会い、流れで一晩自分の家に泊めることになった。新たな始まるかも。

2.一方、観客である我々が見る世界。宮田の元彼女の詐欺師、宮田の友人の探偵、宮田をフッたあゆみが愛人をやっているヤクザの親分、そしてなんと真紀までも絡んでる。消えたヤクザのお金2000万円を巡って宮田の知らない間に宮田の家で繰り広げられるのだから面白い。

宮田は観客が見ている世界には踏み入れることは一切なく、「宮田だけが知らない」という絶妙な状態をキープし続けてラストまで行っている。

宮田の家に他の4人の男女が出入りしているのに、それを宮田が全く知ることがなく進行させるという巧妙さ。同じ場面を夫々のキャラクターの視点から撮っているので、さっき見たシーンが別の視点で再度登場する。タイムスリップでも何でもないのに、まるで『バック・トゥ・ザフーチャーPART II』のような感じになっているところも秀逸(PART I のシーンをPART IIでおさらいするみたいな)。 

物語は3つのパートに別れていて、それを順々に観ていくとこの物語がどんどん深まっていく構成になっている。

1番目は失恋した宮田。2番目は宮田の失恋事件を別の角度から見る神田。3番目は失恋事件の主犯格のあゆみがやらかした2000万円を回収するヤクザの親分。

1→3へ行く毎に、シンプルな失恋話がいつの間にかヤクザのお金盗難事件に様変わりしているのだから、なんて巧妙かつ上手い構造なんだろう。

そして3番目の話は、先の若造二人とは人生の経験値が格段に上と感じさせ、随所に余裕たっぷりの親分が愛人あゆみの裏切りにも驚かずに、冷静に淡々と、部下のヤクザ達に気付かれずに対処する姿が笑いを誘う。また、この3番目の視点があることでこの作品のコメディ性が完成されるという意味においても重要なパート。

それに、あゆみと真紀が狂っちゃった2000万円が実は偽札でしたというのもこのパートを種明かしとして存在させる意図だろう。

宮田にとってあゆみは元婚約者、真紀は恋人予備軍。二人共がお金を前にして狂うというところが、宮田にとって”運命じゃない”人という皮肉なのかな。

私がこの作品で一番印象に残った台詞、「30過ぎたらクラス替えはなんだよ!」。

あゆみにフラれた宮田に神田がレストランで放った言葉。(実は詐欺師の)あゆみを早く忘れさせるため、ナンパの大切さを熱弁する友だち想いの神田。

中々奥深い台詞。この映画を見たのがちょうど30代になりかけだったので、そうだよね~と苦い想いをしたのをよく覚えている。

実際、全くその通りだなと思う。社会人も暫くやっていると、ビジネスシーンでの出会いなんてビジネスライクそのもの。全く人間味のない、当たり障りのないキャラクター同士の会話に終始する。異性に出会っても心が開くような展開に発展させるのは、相当ハードルが高い。大人と大人の出会いは、ビジネス用の人格がまず最初に登場するから、中々自分の核となる素の自分を曝け出すまでいくつかの段階と時間を経る必要がある。

小学校~高校の時は強制的にクラス替えがあった。ちょっと上手く行かなかくても、クラス替えで人間関係も適度にシャッフルさえてリフレッシュされるから、必然的に新しい出会いも訪れた。それに未だ無邪気だったから、他の子と仲良くなるのにも素の自分から入れてハードルが低い。

だから、社会に出るまでに勝負をかけておくのは非常に大事なことなんだなとしみじみ思う。

いわゆるスター俳優さんは出ていないけれども、どこかで必ず観たことがある役者さんたち。

インパクトは低くて地味だけれども、夫々のキャラクターをとてもいい味出して演技している。

これが逆にスター俳優さんならちょっと興ざめな感じがすると思う。

同じ内田けんじ監督で、『アフタースクール』(2008)は大泉洋、佐々木蔵之介、常盤貴子、『鍵泥棒のメソッド』(2012)は堺雅人、広末涼子、香川照之が出演しているが、個人的には、『運命じゃない人』が一番出来が良いと思う。スター俳優が出演しているから作品の質が落ちたというわけではないけど、『運命じゃない人』程には脚本に仕込みがなくシンプルな作りという点がどちらの作品も言えるかな。

  • 随所に巧妙な仕込みがなされていて、仕込みは最後にきちんと回収されるので気持ちいい
  • 物語は3つのパートに別れていて、順々に観ていくと物語がどんどん深まっていく構造
  • 主人公宮田の世界と観客が見ている世界は違う
  • 主人公宮田は観客の観ている世界に踏み入れることは一切なく、「宮田だけが知らない」という絶妙な状態をキープし続けてラストまで突入する
  • 『アフタースクール』(2008)、『鍵泥棒のメソッド』(2012)よりも『運命じゃない人』の出来が良い(個人的見解)
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