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もくじ
『ハワーズ・エンド』プチ情報
ジェームズ・アイヴォリーが最も得意とするイギリス上流階級を舞台にしたコスチューム・プレイです。美しい映像はまるで絵画のようです。恋愛映画と思われがちですが主軸ではありません☆
『ハワーズ・エンド』のあらすじ
中流階級のシュレーゲル家の姉妹は、妹の失恋事件がきっかけで上流階級のウィルコックス家の夫妻と親しくなった。ウィルコックス夫人は次第にシュレーゲル家の姉マーガレットのオープンな人柄と人懐こさに心の安らぎを見出し、死に際にマーガレットに別荘(ハワーズ・エンド)を遺贈した。一方、妹ヘレンはひょんな事から労働者階級の文学青年レナードと知り合い、家族ぐるみで交流していく。
『ハワーズ・エンド』予告編
出典元:Cohen Media Group/Official Trailer
『ハワーズ・エンド』の作品情報/キャスト
原題 | Howards End |
公開 | 1992 |
ジャンル | ドラマ |
監督 | ジェームズ・アイヴォリー |
出演 | エマ・トンプソン、ヘレナ・ボナム・カーター アンソニー・ホプキンス ヴァネッサ・レッドグレイプ |
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『ハワーズ・エンド』のレビュー・感想・考察(ネタバレ注意)
以下は本作に対するmmの感想と考察です
恋愛映画ではない
冒頭のキスシーンで、いかにも恋愛映画?と思ってしまうが、ハズレである。
恋愛の要素は含まれているが、物語の軸ではない。また、事件らしい事件が起こるわけでもなく、途中まで見ても、一体何の話が主軸かわからない。上流階級と中流階級と労働者階級の交流が淡々と描かれ、それで一体を描いているのかという気分になる。
そういう意味で、どこに向かって行っているのか全く読めないストーリー。何を描いているのかわからないから、かえって引き込まれる。そして、観終わって漸く分かった。
これは不動産の話しであると。
マーガレットはバラエティ番組の女性芸人
姉妹は基本的にとてもお喋りである。しかし、そのお喋りで物おじしないな性格がいつの間にか人生を切り開いていくのだから、単なるお喋り好きではない。
特に姉。オールドミスの姉は妹の恋愛を祝福し、自身が独り身であることに無関心。妹に嫉妬することもない。妹も、姉の結婚を心配しているわけでもなく、無邪気に自分の恋愛を報告する。二人とも他人を羨んだり、嫉妬したりすることがない。とても良い性格の姉妹だ。
特に姉マーガレットがウィルコックス夫人から好かれていく過程は、バラエティ番組の女性芸能人のメンタリティと通じるものを感じた。自分の失敗談を、恥ずかしさを伴わずに披露し、他人から共感を得る。主に関西出身の女性芸能人が良くやる手法である。確かに、人は恥ずかしかった事や本音を曝け出すことによって、人から信頼を得てグッと距離が縮まる。失敗を笑って話してくれる人には強さを感じる。姉は冒頭の妹失恋事件や自宅の賃貸期間満了により住む所を追いやられることになると明るく快活に話す。それによって、ウィルコックス夫人との心をグッと掴んで距離を縮めることに成功する。病魔に侵されているウィルコックス夫人の心の隙間に、おしゃべり好きで屈託のない姉はいとも簡単にスッと入り込んだ。
勿論、姉は夫人に取り入ろうと計画していたわけではない。そういう性分なのである。無意識でハワーズ・エンドを遺贈されるほどまで信頼を勝ち取った。凄腕のコミュニケーションスキルである。エマ・トンプソンも表裏のない姉のキャラクターを鮮やかに演じていた。
ヘレンの人生は複雑に
一方、人々を交流することによって、妹ヘレンの人生は単純ではなくなっていく。誤った情報で他人の人生に介入してしまったからである。それは姉も同じであったが、ヘレンは罪悪感で以前のような明るく天真爛漫ではなくなっていく。
善意で謝った情報を流したのは姉も同じであるのに、なぜヘレンだけこの事件で人生が一変していくか。
それは彼女が愛した人に由来する。生来の世話好きな性格が愛する人を不幸にしてしまった。そして、その罪の意識から自分も同じく不幸になっていく。
同時代の女性とは異なる
物語は1900年初頭。階級社会のイギリスで、物語を牽引する姉妹の性格は時代背景的にも一歩先を行く進歩的な女性として描かれている。姉妹は、階級に関係なく積極的に下心無く人と交流していく。そういう女性は、当時は相当珍しい存在として描かれている。姉妹が持つ生来の明るさと善良さ、本音を語る心のハードルの低さが人々を魅了し、人との交流を豊かにした。そのオープンマインドな、自分の軸を持った姉妹の性格が人々の心を開き、自らの人生をも拓いていった。
一方、ウィルコックス夫人は同時代的な控えめかつ保守的な女性として描かれている。彼女はもう少し奔放に生きていたかったが、時代がそれも叶わず死んでいく。
不動産まで譲り受けてしまう程のコミュニケーションスキル高い姉。不動産だけでなく、ちゃっかりお金持ちの後妻にも収まった。姉は、全ての幸運が自分の前向きな性格に起因するなんてことには無頓着。姉は、自らの知的好奇心と信念に従って、思うままに行動しただけである。その生来の明るさと人懐こさで自然に人に好かれ、本人たちも知らないうちに。
マーガレットだけでなく、ヘレンも当時としては一般的ではない女性と描かれている。未婚で愛する人の子供を授かる。
そう言えば、ヘレンは恋愛や結婚に興味があった。冒頭の失恋事件も、一夜の関係を先走って婚約を勘違いしてしまった。妹は姉よりも愛する人を求めていた。
姉は結婚より、ハワーズ・エンドを欲していた。ウィルコックス夫人にも度々ハワーズ・エンドに住まわせてほしいとアピールしていた。
姉は不動産を授かり、妹は子供を授かる。打算的に行動したわけではないが、それぞれが自分の信念を持って生きていたら、思いがけずに望んでいたものを手にすることとなった。強く欲すれば夢叶う、ということだろうか。
アイヴォリーの真骨頂
ジェームズ・アイヴォリーが一番得意とするタイプの映画である。絵画のような美しい田園風景、美しいドレス、邸宅、調度品と美術。『眺めのいい部屋』(1985)、『日の名残り』(1993)と共に、1900年代初頭~中頃のイギリス中産・上流階級の人々の心を繊細に描いた。
カリフォルニア出身のアメリカ人ジェームズ・アイヴォリーが、ど英国な作品を立て続けに発表して大成功を収めていったのは、ある意味凄い。父親がアイルランド出身で、母親はフランス出身であるから、どちらもイギリス人でさえない。夫々の親戚や祖先はイギリスと縁があるかもしれないが。本人はアメリカ生まれである。
ハリウッド映画のイギリスと日本
ジェームズ・アイヴォリー作品を観て、イギリス人的に変なイギリスの描写がされていないのだろうか。イギリス人に聞いてみないとわからないが、多分あんまり違和感がない描かれ方なのだろうと思う。違和感があったら、流石にアンソニー・ホプキンスがその場で物申しただろう。ヴァネッサ・レッドグレイプも重鎮であるし。
それを考えると、海外の映画作品における日本の描写は酷いものばかり。『ティファニーで朝食を』(1958)で登場する日系アメリカ人男性のミスター・ユニオシは、なんで出っ歯なんだろうとか。
酷過ぎるのは、キアヌ・リーヴス主演の『47RONIN』(2013)。あらゆる点で日本描写が全部ダメで、観る時間が勿体なくなって途中で止めた。ハテナを通り越して不快しかない。日本人キャストも沢山出ていたというのに。ハリウッド映画だから、アメリカ人の無理解・不勉強を受け入れないといけなかったのか。エリザベス1世のように巨大な襟巻のある着物なんて、赤穂浪士の時代にあるわけがない。
一方、イギリスは英語を話すし、かつての大英帝国である。アメリカ資本の映画であっても、日本と比べたら全く立ち位置が違う。対等に仕事できるだろう。こんなところにも差別があるのかも感じてしまう。
『ハワーズ・エンド』のまとめ
- ジェームズ・アイヴォリーお得意の美しい作品
- 冒頭のキスシーンで始まるが恋愛映画ではない
- 主人公姉妹のお喋り・お節介が夫々の人生のコマを進め、コミュニケーションスキルの高さがもたらす効果に大いに学ぶところあり
- アメリカ人監督であるがイギリス文化に対する誤解はそれ程目立つものはなさそう
『ハワーズ・エンド』のロケ地情報
ハワーズ・エンド:Peppard Cottage, Oxfordshire
シュレーゲル家のフラット:Regency Row in Victoria Square, London
ウィルコックス家(ロンドン): 51 Buckingham Gate
ウィルコックス夫人とマーガレットがクリスマス・ショッピングをする店:Fortnum & Mason