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もくじ
『泳ぐひと|The Swimmer』プチ情報
前代未聞のスイミングロードムービー。主人公の男はずうーっと海パン一丁。もうずっと。全編衣装を海パンで押し通した作品はこれ以外にないでしょう。プロットといい、意味不明さはMAX。異作・珍作と言ってもいいかもしれません。でも、単なる奇天烈な作品では終わっていません。ぜひ鑑賞して珍妙な世界観を覗いていただきたいです☆
『泳ぐひと|The Swimmer』のあらすじ
ある晴れた日曜の午後、森から現れたのは筋肉隆々の海パン一丁の中年男。男は知人の豪邸にあるプールに現れ、プール脇でくつろぐ知人に対して意気揚々と、「ここから隣人たちのプールと市民プールの合計8つのプールを泳ぎ継いで、自宅に帰る!」と宣言。男は白い歯を輝かせて少年のように笑顔を振りまいた。かくして、男の自宅へ向けた”プール・ハシゴ・ミッション Road to 自宅”が始まった。果たして男は無事自宅に辿り着けるか。
『泳ぐひと|The Swimmer』予告編
出典元:Grindhouse Releasing/Official Trailer
『泳ぐひと|The Swimmer』の作品情報/キャスト
原題 | The Swimmer |
公開 | 1968 |
ジャンル | ドラマ |
監督 | フランク・ペリー、シドニー・ポラック |
キャスト | バート・ランカスター、ジャネット・ランドガード キム・ハンター |
『泳ぐひと|The Swimmer』の配信・レンタル(日本国内)
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サービス名 | サービス | 本作の 利用状況 | 無料お試し期間 | 費用 |
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『泳ぐひと|The Swimmer』のレビュー・感想・考察(ネタバレ注意)
以下は本作に対するmmの感想と考察です
前代未聞のスイミングロードムービー
今まで見聞きした話で、グンを抜いて意味不明。前代未聞、摩訶不思議過ぎて理解が追いつかない。男が自宅へ帰るだけと言えばシンプルであるが、その工程が「プール伝い」。度肝を抜く奇抜さである。きっとヘンな人なんだろう。けど、なぜ?なにゆえ、そんなことを・・・?そしてそんな話が映画になっているなんて。異色のロード・ムービーと言えなくもないが。
アメリカ映画を観てたら、ロード・ムービーというのは多い。『イージーライダー/Easy Rider』(1969)、『ハリーとトント/Harry and Tonto』(1974)、『ペーパー・ムーン/Paper Moon』(1974)とか。
車でもバイクでもなく、“泳ぎ”にフォーカスしたスイミング・ロード・ムービーというのは、古今東西、本作以外ないであろう。観る人を選ぶとっても挑戦的かつアグレッシブな作品である。チャレンジ精神旺盛な人、ぜひおすすめしたい。
因みに、異色のロード・ムービーは他にもある。イランのキアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?/ Where Is the Friend’s Home?』(1987)。クラスメイトのノートを持ち帰ってしまった少年が、クラスメイトにノートを返却するために隣村まで行って家を探す物語である。こちらは徒歩。
この映画に出会ったのはザ・シネマ
そんなわけで勿論カルトムービーである(どこをどう切っても)。知る人ぞ知る映画。地上波で登場することがあったとしても、深夜枠。
もう全く意味不明で言っていることがよくわからないけど、でも面白そうと思った人。そう、そういう人だけが、この五万とある映画作品の中でも相当珍しい部類に属するこの作品に触れることができる。色んなことを考える人がいるんだ、世界は広いと改めて気づかせてくれる。
ケーブルテレビ局ザ・シネマで、映画評論家の町山セレクションで初めて知った。その時の衝撃をとい言ったら。ティーンの頃に読んでいた映画雑誌「ロードショー」や「スクリーン」、「この映画がすごい!」にも一切載っていなかった(と思う)。
町山氏の視聴前・視聴後の解説(2回ある)は、大変面白く、かつ勉強になった。豊富な知識で、監督や役者の情報も然ることながら、当時の社会的背景や原作等の周辺情報もばっちりカバーしてくれる。
本作はケーブルテレビにおいても、ゴールデンタイムには放映されず、ヘンな時間帯に放映されていた。平日の午前中に放映するのを随分前から予定して鑑賞した(ビデオが無いのでライブで観るしかない)。
バート・ランカスターがすごい
主人公の中年海パン男はバート・ランカスター。1960年、『エルマー・ガントリー/魅せられた男』でアカデミー主演男優賞受賞、ゴールデングローブ賞主演男優賞に輝いた大スター。
バート・ランカスターという人に気づいた時、既に彼はキャリアの後半に来ていた。病気もしていたそうで、もう主役を張ることはなく、『カサンドラ・クロス/The Cassandra Crossing』(1978)の悪い大佐とか、『バイオレント・サタデー/The Osterman Weekend』(1983)の悪いCIA長官とか、サスペンス&パニック系でストーリー上重要なキャラクターだけれども悪い脇役というイメージが強かった。『終身犯/Birdman of Alcatraz』(1962)も観ていたけれども(本項末尾参照)。
本作はほぼバート・ランカスターの裸体で構成されている。彼の衣装は海パンのみ。衣装さんは同じ海パンを十数枚用意したという。なんせ海パンしかないのだからそうなる。しかし、数枚ではなく、撮影中に何があるかわからないので十枚以上はきちんと用意するのですね。
撮影時、バート・ランカスターは既に中年(50代前半)。にもかかわらず、その筋肉美はまだまだ健在。若い時、サーカス団にいたという彼は同世代の俳優の中でも突出した筋肉美を持っている。
既に大スターの地位を築いて久しい彼に、衣装が海パンしかない作品のオファーし、そしてそれを引き受けたのだから、バート・ランカスターという俳優は恐ろしく底の深い役者なのだなと感心する。
しかも、である。なんと、その唯一の衣装=海パンを脱いでしまうシーンがある。もうこうなったら全裸である。もちろん健全な作品なので隠す所は隠す。大事な所を色々な物で微妙に自然に隠れるようにして、巧みに撮影する手法。往年のコメディ番組の手法と同じなので爆笑してしまう。
全裸になるシーンは、富豪の初老の夫妻がプール脇でくつろいでいる庭に、海パン男が乱入する場面。初老の夫妻の優雅な午後の紅茶タイムとのギャップが面白いシーンである。また、途中、草原で水着の女の子と妙なプロモーションビデオみたいになって戯れるシーンもある。大スター相手にここまでシュールを追及し尽くした、監督のメンタルの強さに完敗。
こんなにもメインストリームから遙か彼方に位置する作品に出演することをOKしたバート・ランカスターという人は、相当頭が柔らかく、きっと文学・アートにも理解力のあった人だったのだろう。
因みに、バート・ランカスターの作品でその他のおすすめは、『終身犯/Birdman of Alcatraz』(1962)。終身刑となって刑務所で服役する主人公が、独房に訪問する小鳥を愛でている間に鳥類について研究し没頭するあまり、鳥類研究者の権威にまで上り詰めるストーリー。ご興味ある方はこちらもぜひどうぞ。
意外と泳がない
邦題『泳ぐひと』からして、とんでもなく泳ぎまくるスポーツ映画かと思いきや、実は、海パン男はそんなに泳がない。そこがまた面白い。原題は『The Swimmer』だから、日本語の語感よりもアスリートな雰囲気満載であるのに(ネイティブの人の語感はよくわからないけれども)。
物語の大半は、豪邸の住人と会話したり、女の子と戯れたり、草原で馬と走ったり、ワゴンを巡ってケンカになったり、悲壮な顏で車道を横切ったり。
このおっさんはもはや泳ぎもしないで海パン一丁で何をやっているんだ。
出だしも奇天烈であるが、途中も奇天烈。観れば観るほど、海パンおっさんの不可解極まりない暴走によって多くの視聴者の脳はもっと迷路の奥へ行ってしまうことだろう。
でも、そこは耐えて、ぜひ最後まで見て欲しい。おっさんのラストを観ると、何とも言えない悲しい気持ちになってしまう考えさせられる作品であるから。
海パン男のミステリー
富豪の隣人のプールを渡り泳いで住人と交流していくうちに、これまでの自分の振る舞いによって人々から嫌悪されているということを薄々感じていく海パン男。
最初は良く日焼けした肉体に真っ白な歯を見せて意気揚々と明るかった表情も、プールを泳ぎ継いで行くにつれ、段々と注がれていく周囲からの批判的な視線によってどんどん曇っていく。
人々とのやり取りを見ていると、どうやら海パン男と人々の間には、何か大きなズレというか溝というものがあるのではという事に気づく。然し、海パン男は全く気づいていない様子。男は自分は素晴らしい人間だと主張するが、人々は全否定する。
海パン男と人々との間には何かトラブルがあったのだろうということがわかる。ひょっとして男は、その自意識過剰で破滅したのだろうか。海パン男が世間から浮きまくっていることがひしひしと伝わってくる。
なぜ海パン男は人々の批判的な目線にこんなにも疎く、自己中心的に振舞うのか。無神経なだけ・・・?
世間と乖離しまくっている海パン男は一体何者なんだろう。世間との乖離が激しく、突如ミステリーの様相を呈する。
冒頭で海パン男がひょっこり出て来た森というのは、どこかの精神病院の庭だったのか。それとも、海パン男は精神を病んで自殺し、もうこの世の者ではないのか。そんな疑念さえ抱いてしまう。ひょっとするとホラー作品なのかもしれない。
果たして、海パン男は家に辿り着いたか。そこは観てのお楽しみ。
前述のとおり、原作はジョン・チーヴァーの短編小説である。1950年代を代表するアメリカの作家。郊外に暮らす中産階級を皮肉たっぷりに描くことを得意とする。日本語版は村上春樹の翻訳。
『泳ぐひと|The Swimmer』のまとめ
- 主人公はずっと海パン、全裸になることも
- スイミングロードムービーという新ジャンル
- 意外と泳ぐシーンは少ない
- バート・ランカスターは50代でも筋肉隆々
- 実はミステリー